ロナウジーニャのパスポート

さいきょうのブログ

延羽の湯にて


 ユダヤ人が割礼という儀式を行っていることを知ったのは、つい最近のことだった。割礼と言うのは簡単に言えば、男性器の先っぽにある皮をちょん切ることである。延羽の湯のロビー、円形に並んだソファに凭れながら、僕はウィキペディアでその衝撃の事実を知った。そしてその衝撃を受けながらも、一種憧れに似た感情を覚えずにはいなかった。

「humm...It's crazy」

 レモングラス風呂に浸かりながら、その言葉だけが聞き取れた。映画の中で何度も聞いた様な、日本人が急ごしらえで考えたような外国人らしい台詞。あまりにも外国人らし過ぎる言葉を外国人が発したというそのことに、僕は少し笑いかけた。しかし、その話者の一人に目を向けたその時、僕は愕然とした。綻びかけた口元が微笑へと昇華するには、それはあまりにも巨大すぎた。浴槽の角にある蛍光色の照明。その温かみのある光が僕の視線を促すように、浴槽の縁に座った中肉中背の男の局部に注ぎ込まれている。

 シックスセンスを初めて見た時のような衝撃が、僕に視線を逸らさせた。ブルース・ウィリスは死人だった。そして死人でありながらも、下腹部には目の前の男と同じような、クリストファー・ロビン一人分かと思えるほどのシフトレバーが付いていたのだ。淡い山吹色の光を照り返しているそれは、僕からすれば見事なもので、言わばポストモダン的男根とでも形容すべき代物であった。

 浴槽から彼らが出ていくと、僕は指の爪を点検する素振りを見せながら、その指越しに自分の局部を見つめた。震えて縮こまるピグレット。彼の手前には黒く縮れた葉の生い茂る百エーカーの森。

 僕は周りに人の目がないのを見計らって、良い湯加減だとでも言った具合に首を目いっぱい逸らし、心地よさげに溜息を吐いた。レモングラスの黄色が、お湯に適度な濁りを含ませていてちょうどいい。僕は事も無げにピグレットに触れ、彼を優しく剥いた。

 そして弓道で言うところの、弓を放った後の残心のような感覚に陥っていたけれど、僕はふと、いつかクリストファー・ロビンが言ったような次の言葉を、うろ覚えではあるが思い出した。

君は自分が信じてるより、勇敢で、強くて、君が自分で思ってるより賢いんだよ。

 忽ちに僕は、ピグレットに丈夫なトレンチコートを着せようと、また下腹部に手を伸ばした。つまり、こういうことだろ、クリストファー・ロビン

 

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